ベテラン記者コラム

ヒラリーと「ガラスの壁」 「ねばねばの床」という新視点 大阪編集局特別記者・石野伸子

 しかし、最後の最後までこんなふうに使おうとは思ってもいなかったのではないだろうか。

 「我々には打ち砕けない最も高く、最も硬いガラスの天井が依然としてある。でも、いつの日か、願わくは我々が考えるよりも早く、だれかが打ち破ってくれるに違いない」

 トランプに思わぬ敗北を喫し、一夜明けたニューヨークで語られた言葉は、憑物(つきもの)が落ちたような潔さで人々の心を打った。憑物。そう。この演説を聞いて妙に納得するものがあった。ガラスの天井の下にいたのは「我々」ではない。ヒラリー自身。米国初の女性大統領になりたいという憑物にとらわれた元大統領夫人。世間はそれを嫌がった。彼女は気づいただろうか。

 ヒラリーが最後の「ガラスの天井」を語った今年11月、日本の女性労働をめぐり面白い研究が公開された。原ひろみ・日本女子大准教授(労働経済学)が経済産業研究所のサイトにアップした論文「ガラスの天井か、床への張りつきか?」。賃金の男女間格差について「床への張りつき」という新しい視点を示し、注目された。

 なぜ日本はOECD諸国の中でも韓国に次ぐワースト2となる大きな男女間賃金格差から抜け出せないのか。原准教授は厚労省の賃金構造基本調査を詳細に分析し、こう考察した。

会員限定記事会員サービス詳細