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大学生に絵本を読んであげると、幼い子供に対するのとは異なる反応があり、絵本の奥深さに気付かされます。幼い頃、絵本の周辺にあった「人」や「もの」「こと」の記憶が蘇(よみがえ)り、成長した自身との新たな対話が生まれるのです。
昭和38年に福音館書店から刊行された「ぐりとぐら」(中川李枝子・作 大村百合子・絵)という有名な絵本があります。料理好きの野ネズミの「ぐり」と「ぐら」が森で大きな卵を見つけ、カステラを作って仲間たちに振る舞うという物語です。
ある教え子の女子学生は幼い頃、共働きの両親の帰りが遅い日には、決まって祖母がこの絵本を読んでくれたそうです。彼女は「子供心に『おばあちゃんが読んでくれる本』だと思っていた」と振り返ります。
この絵本を読んであげたところ、大学生になった彼女が十数年ぶりに物語に耳を傾け、その心に蘇ったのは、祖母と過ごした部屋の「色」や「匂い」、そして祖母の膝の上の「感触とぬくもり」でした。彼女はその心境に驚き、自分がどれだけ祖母に愛されていたのかということに改めて気付かされたといいます。
なぜ、祖母は繰り返しこの絵本を読んでくれたのか。その物語の中に、祖母からの大切なメッセージがあったのではないか。そんなことを考えるようになったそうです。成長した「今」のまなざしで、「『ぐりとぐら』を味わいたくなった」というのです。