■人口減に耐える社会目指せ
日本の人口減少はすでに加速し始めた。安倍晋三首相はいまこそ「非常事態」を宣言し、早急に少子化対策の強化に乗り出すときである。
昨年の年間出生数が100万人の大台を割り込む見通しとなり、少子化は一層厳しい状況に追い込まれた。今後、子供を産むことができる年齢層の女性が激減するため、出生数はさらなる落ち込みが予想される。
次世代が生まれなければ、社会は機能しない。国家が成り立たなくなるのだ。人口減少に耐えうる社会への作り替えも同時に急がなければならない。今年は「対策元年」と位置付けるべきだ。
≪少子化はより一層深刻≫
厚生労働省が昨年末に公表した推計によれば、昨年の年間出生数は98万1千人にとどまる。ピークの昭和24年には270万人を数えた。わずか70年弱で3分の1というのは、あまりにもペースが速い。危機感を共有したい。
少子化はこの先、一段と深刻化する。これまでの少子化の影響で「未来の母親」となる女児の数が減っているからだ。
少子化がさらなる少子化を呼び起こす悪循環に日本は陥っている。出生数減少に歯止めがかかるには、相当に長い年月を要することを覚悟しなければならない。
100万人を割った年間出生数は今後40年ほどで50万人を割り、100年後には25万人にすら届かなくなると予想されている。本当にこんなペースで減り続ければ、社会の混乱は避けられない。
少子化は経済の縮小や社会保障の制度破綻といった社会の大枠にあたる事柄だけでなく、あらゆる面で国力の衰退を招く。
たとえば「若い力」を必要とする自衛隊や警察、消防といった職種も人材不足となる。このままでは国防や治安も揺らぐ。
農業や建設業、物流を支えるトラック運転手などの後継者不足の広がりも国民生活に直結する。過疎化が進む地方で伝統や文化の継承を難しくするばかりか、地域社会そのものが崩壊しかねない。「国難」と呼ばれるゆえんだ。
極めて厳しい状況に置かれているが、悲嘆に暮れてばかりもいられない。少子化の克服は一朝一夕にはならないとしても、官民を問わず、できるところから着手していくしかない。
今、取り組むべきことは2つある。第1は、言うまでもなく少子化対策の強化だ。国民の多くが結婚を望み、子供を持ちたいと考えているところに希望はある。
結婚や出産を願っていても実現できないのには、さまざまな理由がある。政府には、国民のニーズにしっかりと耳を傾け、これまで以上にきめ細かな対策を講じていくよう求めたい。
とりわけ急がれるのが、男性の雇用や収入の安定だ。各種世論調査によれば、異性との付き合い方が分からない若者も増えている。企業や自治体には、出会いの場や雰囲気づくりが期待される。かつてのような縁談を勧める「世話焼き」の輪も広げていきたい。
≪未来への希望持たせて≫
第2は、出生数が減り続けることを前提とした社会づくりだ。昨年の人口減少幅は31万5千人と過去最多を更新する。毎年100万人ずつ減る時代も到来する。これを外国人で「穴埋め」する考えもあるが、非現実的である。
国を挙げてロボットや人工知能(AI)開発を推進しなければならない。一方、高齢人材の活用や24時間営業の見直しなど、企業側も個別の事情に応じて取り組めることはあるはずだ。
高齢者の激増と同時に、人口が極端に少なくなる地域も増える。若者が少数でも社会を機能させていくには、「コンパクトな町作り」という視点が欠かせない。
人口減少に耐え得る仕組みを構築しつつ、長期的視座を持って出生数回復を待つ。それが日本の置かれた姿である。
少子化社会を乗り越える上で重要となるのは「未来への希望」である。将来不安が強すぎては、結婚や出産の機運は芽生えず、社会の活力もそがれる。
生まれてくる子供たちを迎える未来の日本はどんな社会なのか。日本を発展させ、豊かな暮らしを実現する方策について、首相にはより具体的に語ってほしい。
多くの人々が家庭を築き、子孫をつなぐ喜びを再認識してこそ、少子化の流れは変わり始める。