映画深層

『幸福のスイッチ』から今年で10年 新人発掘の聖地「田辺・弁慶映画祭」に行ってみた

 午後1時、上映開始。トップバッターの「林こずえの業」(蔦哲一朗監督)は33分の短編で、ドキュメンタリーなのかフィクションなのか判然としない独特の映像世界が展開する。上映後には監督らが登壇しての質疑応答となるが、前方の審査員だけでなく一般席からも次々と手が挙がり、作品の細部まで踏み込んだ質問が飛び交う。「祖谷(いや)物語 おくのひと」で劇場公開も経験済みの蔦監督だが、「噂通りですごいですね」と、あまりの質問攻めに驚いていた。

若い監督とともに成長

 まだ10回目と歴史は浅いが、過去の受賞者には、沖田修一監督、瀬田なつき監督、今泉力哉監督、岨手由貴子監督ら、その後、商業映画デビューを果たした実力派も多い。昨年の映画祭に出品された「イノセント15」(甲斐博和監督)は、この12月17日から劇場公開が実現するなど、田辺系監督は今や、日本のインディペンデント映画を語る上で欠かすことのできない重要な存在になっている。

 そもそも10年前に田辺で映画祭が始まったのは、1本のご当地映画がきっかけだった。沢田研二、上野樹里の主演で父と娘のふれあいを描いた平成18年の「幸福(しあわせ)のスイッチ」(安田真奈監督)は大半が田辺で撮影された作品で、多くの市民がロケ隊に協力した。市内でミカンなどの農業を営む原拓生さん(48)もそんな1人だ。