ニュースの深層

白ブリーフ姿に隠語投稿の東京高裁裁判官、厳重注意後も活発ツイート 表現の自由と品位の狭間が悩ましい問題に

 その一方で、裁判所法は裁判官の業務内外での「積極的な政治活動」を禁じている上、「品位を落とす行動」は懲戒対象になるとも定めている。ただ、岡口裁判官は政治ニュースに個人の感想を述べることはあっても、特定の政治活動に携るような投稿はしていない。勤務中の投稿や、局部など極端にわいせつな写真の投稿などもない。もちろん、職務上で知った裁判内容の漏洩(ろうえい)などもしていない。

一定の制約受ける裁判官

 裁判官は高度の中立性・独立性が求められるため、憲法で身分が手厚く保障されている。免職するには国会議員による弾劾裁判が開かれる必要がある上、戒告などの懲戒処分を下す場合であっても分限裁判を経る必要がある。6月の厳重注意は、懲戒処分ではなく、内規に基づいた指導に過ぎなかった。

 ただ、裁判官の表現の自由は一定の制約を受けているのも事実だ。

 平成10年、仙台地裁の男性裁判官(当時)が、組織犯罪対策関連法案をめぐる反対集会で、「パネリストとして参加するつもりだったが、地裁の所長から止められた」などと一般席から発言し、仙台高裁から戒告処分の決定を受けるという問題が起きた。

 男性裁判官は処分の決定を不当として即時抗告したが、最高裁は「発言や反対集会への参加は積極的政治活動に当たり、処分は適切だった」として抗告を棄却。その上で、「裁判への国民の信頼を維持するため、裁判官の表現の自由は一定限度制約されるのはやむを得ない」との判断を示している。

“空気のおいしいところ”に異動も

 裁判所と密接に関わる検察庁も同様に、検察官がSNS上で活動することを制限していないという。ただ、ある検察幹部は「うちの組織でああいう行動を続けていたら、空気のおいしいところに行ってもらうことになるだけだ」と話し、同じ司法関連機関でも温度差があるようだ。

 つまるところ、岡口裁判官の活動が社会に突きつけているのは、(1)「積極的な政治活動」や「品位」といった言葉の定義が曖昧であるのに、安易に指導や処分をしても良いのか(2)表現の自由のとりでともいうべき裁判所が、裁判官個人の表現活動にどこまで制約を課すべきか(3)自身が属する組織の信用を傷つける恐れもある行動を、個人はどこまで許されるのか-などの問題だ。騒動で一躍有名人となった岡口裁判官は、そうした問題を考えるきっかけを社会に与えてくれているともいえそうだ。

【岡口基一裁判官の厳重注意問題】東京高裁の岡口裁判官は平成26年4月~今年3月、自身のツイッターに「エロエロツイート頑張るね。白ブリーフ一丁写真とかもアップしますね」「行きつけの飲み屋でSMバーの女王さまに縛ってもらった」などとする男性の半裸画像など3件を投稿。これを問題視した東京高裁は今年6月、口頭での厳重注意とした。岡口裁判官はツイッター上で「今後はこうしたことはしない」と謝罪したが、厳重注意の内容を報道機関に明らかにした高裁の対応を批判し、その後も従前同様の活動を続けている。岡口裁判官は東大卒。平成6年任官。

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