鑑賞眼

「天川屋」歌六の義平が逸品 国立劇場「仮名手本忠臣蔵」

 国立劇場開場50周年記念。10月から3カ月にわたる「仮名手本忠臣蔵」全段完全通し上演の第3部、最終公演。

 8段目「道行旅路の嫁入」から。竹本連中による義太夫語りと三味線がたっぷりあって、東海道を京へ上る道中を小気味よく見せる。連れ立つ2人は加古川本蔵妻、戸無瀬(となせ)(中村魁春(かいしゅん))と娘、小浪(中村児太郎)。許嫁(いいなずけ)の大星力弥に嫁入りする娘の高揚感と継母ゆえの心情の陰りが薄く淡々と9段目に入るが、最大の見どころ、「山科閑居」で一変する。

 大星由良之助家の住まいに乗り込んだ2人に由良之助妻、お石(市川笑也(えみや))が婚約解消を告げる。本蔵は塩冶(えんや)判官刃傷の因を作った男。絶望した2人は死のうとするが、本蔵の首を差し出せば力弥に嫁がせる、と言い放つ。この場、憤然たる戸無瀬の真紅(しんく)、諦念の小浪の純白の着付けに2人の決意が宿る。笑也の漆黒衣装も凛と映え、絵面が美しい。そこへ現れる松本幸四郎の本蔵が大歌舞伎を見せる。「首、進上申す」と、遊興に耽(ふけ)る由良之助を罵(ののし)りながら、誠の忠義と親心のありように懊悩(おうのう)するさまに老境の武士の風姿を漂わせる。中村梅玉(ばいぎょく)の由良之助が生一本。力弥に中村錦之助。

 珍しい10段目「天川屋」は天川屋義平の中村歌六(かろく)が逸品。「男でござる」の声、顔、姿にほれぼれする。11段目は「討入り」から「花水橋引揚げ」まで。桃井(もものい)若狭之助(市川左團次)の求めで浪士全員の名乗りがあって幕。26日まで、東京・半蔵門の国立劇場。(劇評家 石井啓夫)

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