その場にロサンゼルス五輪金メダリストの山下泰裕氏がいた。目の前で柔道への真摯(しんし)な気持ちを語ったプーチン氏に対し、あいさつとはいえ、心からの言葉であると感じ取った。さらに、プーチン氏はこう続けた。
「日本の柔道が世界の柔道へと発展していくのはたいへん素晴らしいことだ。われわれにはもっと注目すべきことがある。それは、日本人の心や考え方、そして文化が柔道を通じて世界に広まっていくことだ」
山下氏は、国のトップに立つ人物がこれほどまでに柔道の真髄(しんずい)を理解していることに、強く胸を打たれた。
その後、2人は国やそれぞれの立場を超え、個人的な関係を深めていった。
2000年5月に大統領に就任した当時、ロシアでも「プーチンとはいったい何者なのか?」という声が聞かれた。その疑問に答えるためのインタビュー集が当時、出版された。
「First Person」(邦題「プーチン、自らを語る」扶桑社)。気鋭の記者の質問に、プーチン氏がこう答えている下りがある。
「柔道は単なるスポーツではない。柔道は哲学だ。年長者や対戦相手を敬う。柔道は弱者のものではない。すべてに教育的な要素がある」
不良の道から柔の道へ
故郷サンクトペテルブルクで育ったプーチン氏は子供のころ「問題児だった」。しかし、柔道の師範との出会いがプーチン氏を変えた。13歳の時、地元で道場を開いていたアナトリー・ラフリン氏の手ほどきを受けた。