月刊正論1月号

三笠宮崇仁親王殿下は男系を守ろうとされた 作家・竹田恒泰

陛下の御意思の真相

 ところで、小泉政権下の皇室典範議論で、間接的ではあったが、私から崇仁親王殿下にあるお願いをしたことがあった。今思い起こせば、誠に畏れ多いことである。紀子殿下のご懐妊によって、小泉政権下での皇位継承議論は沙汰止みとなった後の話である。私たち男系維持を是と考える一派は、麻生政権において、男系維持のための皇室典範改定を目指していた。   

 そこに、思わぬ横槍が入った。時の政府高官が語ったとされるある噂が永田町を駆け巡った。噂とは「麻生総理の内奏の折に、天皇陛下が女性天皇・女系天皇を望んでいらっしゃることが伝えられた」というものだった。「内奏」とは、内閣総理大臣が折に触れて参内し、政治の状況などを陛下にお伝えすることである。もしそれが本当なら、男系維持を切望する我々一派の活動は、陛下の御意思に反していることになってしまう。  

 この噂は、内容が具体的だったため、相当信憑性の高い情報とされたが、私はこの噂は偽情報と考えていた。噂を流したのが政府高官か、それともその周辺の人物か定かではないが、この噂を流した人物はこの情報の真偽を確認できる者はいないと考えていたのであろう。真偽を確認する手段が存在しないが故に、情報を流した者勝ちと考えたのであろうか。  

 私は寛仁親王殿下に、この噂は本当でございますかと伺った。すると殿下は「陛下がそのようなことを仰ることは絶対にない」と断言なさった。そこで殿下は「念のため、おやじ〔崇仁親王殿下〕に頼んでその噂が本当かどうか確認してきてもらう」と仰った。それから暫くして寛仁親王殿下からご連絡があった。崇仁親王殿下が参内なさった際に、陛下にこの噂の真偽を直接お尋ねになったところ、陛下のお答えは「麻生総理の参内の折に、皇位継承の話が出たことは無い」というものだった。何とあの噂は嘘だったのである。 

 政治問題につき、ありもしない「陛下の御意思」を捏造するとは言語道断である。この時の陛下の御言葉は、陛下がお身内に発せられたものであり、本来はその御言葉の内容を公表することは憚らなくてはならない。しかし、ここから陛下が皇位継承にどのようなお考えをお持ちであるか分からない。「女系継承が陛下の御意思」というあの噂が嘘であったことが分かるだけである。さすが陛下のお答えだと、深く感心致した次第である。したがって、私はこのお答えは公表してよいと考え、この機会に書かせて頂いた。  

 女性・女系天皇を望むという「陛下の御意思」の真偽を確かめるために、御尽力くださったこの一件から、崇仁親王殿下は、男系継承にとても強いこだわりを持っていらっしゃったことが窺える。このように、殿下は右翼でも左翼でもなく、まして「赤い」などと揶揄されるような方ではあられない。昭和期までは「天皇の弟」として、平成の御世では「天皇の叔父」として、また戦前は「軍人」として、戦後は「学者」として、常に良心に照らし合わせて正しいと思し召されたことを、正直に勇気をもってご発言になっていらっしゃったのであろう。

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