私に電話があったのはジョンがヨーコに協力を頼んだからかもしれない。ポールとはビートルズ解散前後に不仲だったジョンだったが、限りなく優しい人だったからだ。彼がニューヨークで日本語の勉強ノートを見せてくれたことがあった。言葉の横に上手な絵も描かれており(彼は若い頃に美術学校に通っていた)、本気で感心したら、次に訪米したときに立派な皮の表紙をつけてプレゼントしてくれた。「from your cousin John(あなたのいとこのジョンより)」とサインを添えて。
最後に会ったのは亡くなる1年ほど前だったと記憶する。最後になるとは思っていないから会話の中身は覚えていない。63年にはケネディ元米大統領も射殺されていたし、ジョンが撃たれたと知ったときは直感的に「ヒーローとはこういうものなのかな」と思った。いま思うに、彼ほど優しい人間には会ったことがない。私が彼に重ねたイメージは、まさに神道の世界に通じる「生き神様」だった。 (談)
加瀬英明氏 昭和11年生まれ。慶応大学卒業。福田赳夫、中曽根康弘両内閣で首相特別顧問を務める。母親は元日本興業銀行総裁の小野英二郎の娘。オノ・ヨーコ氏は、母の兄の娘。