ジョンは伊勢神宮にも足を伸ばしている。森に囲まれた神宮に魅せられたのだろうか、彼は私に「神道の森は素晴らしい。キリスト教の教会は街の中にあって、周りに自然が少ない」と話していた。私はジョンに神道の自然観を説明したことがあるのだが、そのとき、英国出身者なら誰でも親しんでいる「クマのプーさん」の話をした。プーさんは森で、少年や動物たちと「平等の仲間」として楽しい日々を過ごしている。日本人にとっても動物から草木に至るまでの全てが仲間だから、人間中心主義を戒めるかのようなプーさんの物語は神道に通じるという話をした。そのとき、ジョンはわが意を得たりとばかりに目を輝かせて「その通りだ」と言っていた。
好きな日本語は「オカゲサマ」
いただきます、ごちそうさま…。ジョンは、日本人の価値観を感じさせる、英訳が難しい言葉が好きだった。これらの言葉は神道の教えにも通じるのだが、ジョンは「特に『オカゲサマ』が良い」と言っていた。「おかげさま」は、宇宙が誕生して以来の森羅万象に対する感謝の気持ちを現す語感を含んでいる。ジョンは優れた詩人だったから、森羅万象に対する感覚が鋭敏だったのだろう。
キリスト教は嫌いだったようだ。名曲として知られる「イマジン」では「地獄も天国もあったものではないと想像してごらん」と歌っている。明らかなキリスト教への批判で、過激な歌だった。宗教つまり「レリジョン」の語源のラテン語には「縛る」という意味がある。ジョンは一神教が人を必要以上に縛る、人による自然支配を肯定しているために、違和感を覚えていた。多神教の神道では、自然の細部に至るまで神が宿り、人は自然を尊ぶ。人は自然の一部にしかすぎない。聖書のような教典も存在しないため「縛る要素」が少ない。私が「イマジンは神道の世界を歌っているのではないか」と尋ねると、ジョンは賛同してくれた。