金剛づえをついて札所を回り、朱印をもらう夫婦二人旅の間、神場は決して順風ではなかった42年間の警察官人生を回想する。片田舎の駐在時代に結婚した妻との関係、一人娘を持つに至った経緯、そして深い傷となっている16年前の事件…。背負った過去の重みから神場は終始陰鬱で、妻にも不器用に接する。「私が描く人物は不器用だったり、何かが欠けていたりする。弱いところ、ずるいところなどをひっくるめて、人間のいとしさだと思う」
霊場の開創1200年にあたる平成26年夏、柚月さんは一人で四国へ取材に向かった。現地で大型台風の直撃に見舞われ、「インパクトが大きかった」というその影響で、タイトルも含め雨の場面が多い作品となった。神場の内面と重ねられた描写が印象的だ。
道中、神場は自分と同様に重い過去を背負った人々と出会う。その一人で麦茶を振る舞ってくれた地元の高齢女性は身の上話の後で、こう語りかける。
「ずっと晴れとっても、人生はようないんよ。日照りが続いたら干ばつになるんやし、雨が続いたら洪水になりよるけんね。晴れの日と雨の日が、おんなじくらいがちょうどええんよ」