警察と暴力団の攻防を描いた『孤狼の血』で今年の日本推理作家協会賞を受賞した柚月裕子さん(48)。いま注目を集める作家の新刊『慈雨』(集英社)は、元刑事が遍路巡りをしながら、苦い悔恨となっている16年前の事件と酷似した幼児殺害事件に関わり、真相に迫る長編ミステリー。人は消せない過去とどう向き合い、どう生き直すのかを問うた重厚な人間ドラマが胸にしみる。
群馬県警捜査1課の刑事を定年退職した神場(じんば)智則は、これまで関わった事件の犠牲者を供養するため、妻とともに四国霊場八十八カ所参りの旅に出る。その途上、同県で幼女殺害事件が発生。16年前に捜査に加わり、DNA型鑑定を決め手に犯人逮捕に至った事件と酷似していた。動揺しながらも、かつての部下を通して捜査に関わり、終わったはずの事件とも向き合い始める。
「生き直すことをテーマに書きたかった。過ちをおかし、後悔の念を抱いていない人は少ないと思う。生き直さなければならないと思う場面に遭遇したときに、どう向き合って決着をつけるかが問われる」と柚月さんは言う。