正論

米国の「価値」の神話は崩れた 日本は価値の機軸を自問すべきだ 京都大学名誉教授・佐伯啓思

 そして、経済的グローバリズムはまさにアメリカ主導で作り出されたものであった。皮肉なことに、グローバリズムのもつ問題が、アメリカに深く内在する大衆的民主主義によって一気に顕在化したのである。

≪「本音」に火をつけたトランプ氏≫

 もうひとつの背景は、いわゆるアメリカ民主主義のもつ欺瞞性が身も蓋もなく露呈してしまった、ということである。アメリカの民主主義は、徹底した平等主義と人権主義によって支えられてきた。

 にもかかわらず、実際には、エリート白人層と人種的マイノリティーの間の社会的な境遇は大きく異なっていた。事実上の差別といってもよい。そのことに目をつむりつつ、他方では、逆に「ポリティカル・コレクトネス」が強く唱えられ、表現の自由などといいつつも、差別的発言などは政治的悪としてタブーになってきた。アメリカの民主主義がはらむ、この二重の欺瞞がほとんど限界まできていた、ということである。

 トランプ氏は他にあまり類をみない野蛮さをもって、アメリカ人のもっているある種の「本音」に火をつけたのである。経済がうまくいっておればよいが、ひとたび経済的に不遇を感じる大衆が出現すると、彼らは「ポリティカル・コレクトネス」の背後に隠されてきた移民やイスラム教徒への不信を一気に露(あら)わにしたわけである。そもそも「隠れトランプ」ということ自体が奇妙なことである。

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