湯浅博の世界読解

不都合な史実を書き換える「黒い神話」つぶしに走るプーチン大統領

青山学院大の福井義高教授
青山学院大の福井義高教授

ロシアのプーチン政権は、ソ連時代の都合の悪い「黒い神話」を徹底的に破壊していく。政権の理論武装は、文化大臣のウラジーミル・メジンスキー氏(46)が、もっぱら引き受けているようだ。

青山学院大学の福井義高教授によると、メジンスキー氏は『戦争』という著書によって、歴史的事実を歪曲(わいきょく)あるいは否定したうえで、「勝利で得たモノは手放さない」と宣言してみせる。そこにあるのは、祖国ロシアに対する愛国的情念か、根強く残る救世思想なのかもしれない。

「事実はそれ自体、大した意味を持たない…事実は概念の枠組みの中で存在するに過ぎない。すべては事実ではなく解釈から始まる。あなたが祖国を、自国民を愛するのであれば、あなたが書く歴史は常に肯定的であろう。常に!」(福井氏仮訳)

「黒い神話」には、昭和20年8月9日にソ連軍が日ソ中立条約を破って満州になだれ込んだ一件がある。次いで、8月15日の「終戦の詔勅」が発せられた3時間後、ソ連のスターリンは北千島を占領するよう現地軍に命じていた。

ソ連軍は北方四島を9月3日までに強引に占領した。ところが、ソ連が正史とする『第二次世界大戦史』第11巻は、これらの占領が2日前の9月1日に終了したことになっている。2日のミズーリ艦上での日本降伏文書調印前に、作戦が完了していることを装うためである(竹前栄治著『GHQ』)。