産経抄

「売れ筋でなくとも良書を売る」書店…吉凶どう出るか 11月27日

 太閤秀吉がお伽衆(とぎしゅう)にたずねた。「世の中に一番たくさんあるものは何か」と。「人でございます」と答えたのは、知恵者の曽呂利(そろり)新左衛門である。秀吉はさらに問うた。「一番少ないものは」「人でございます」。

 ▼評論家の谷沢永一さんが昔日のエッセーでこの頓知話に触れていた。筆はこの後、明治期の人物評へと向かい、数人の名を挙げては谷沢流の一刀両断で斬り伏せている。新左衛門の言う「人」とは才知豊かな「人物」のことだろう。ペロリと出した舌が目に浮かぶ。

 ▼「本好き」を表題にした自著もある谷沢さんなら問答にある「人」を「本」に置き換えて、毒を吐くかもしれない。「一番少ないものは何か」「本でございます」。毎年、万単位の新刊が世に出る出版事情を重ね合わせると、良書と出会うにも幸運の手助けが要る。

 ▼知られた警句に「悪書にまさる泥棒はなし」がある。選書の目利き、つまり売る側のセンスも大事になる。「売れ筋でなくとも良書を売る」を掲げたこの書店の吉凶は、どう出るだろう。青森県八戸市が、公営の「八戸ブックセンター」を来月4日にオープンする。