その他の写真を見る (1/2枚)
私が長らく住んでいた逗子市はごく小さな町でひと頃タクシーの数も僅かなもので、そのせいか運転手はほとんど高齢者ばかりだったが、ある時珍しくごく若い運転手に乗り合わせた。私が訳を尋ねたら、実は彼は以前習志野の空挺(くうてい)隊の隊員だったが、かつて北富士での大演習の際パラシュートで降下した時運悪く着地地点が突出した岩で足を骨折してしまい、その場での応急の手当てが間にあわず身体が不自由となり退官して今は仕方なしにこんな仕事をしていますという。これは実は極めて重大かつ象徴的な挿話で日本の自衛隊の置かれた危険かつ不運な立場を表象していると思われる。私の主治医の佐々木医師はかつては首都圏随一の救急病院を仕立てた院長で救急治療の権威だが、彼の知見では日本の自衛隊の医療体制は極めてお粗末なものでその象徴的事例として自衛隊の衛生兵はなぜかモルヒネを携帯していない。こんな事例は世界中のどの国の軍隊でも在り得ぬことで、件(くだん)の元自衛官の悲惨な末路がそれを証していると思われる。
ベトナム戦争を題材にした映画でもよく見られるように、アメリカの軍では衛生兵どころか普通の兵隊までが戦場ではモルヒネを常時携帯しているようで、敵の地雷を踏んで片足がふきとばされた仲間に軍服の上からいきなりモルヒネを注射してしまい暫時苦痛とショックを抑えてヘリで野戦病院に搬送する。