歴史のささやき

ひいきにされなかった「贔屓」

観世音寺所蔵の青磁三足壺
観世音寺所蔵の青磁三足壺

 □西南学院大学名誉教授・高倉洋彰氏

 中国や韓国で石碑を見ると、土台が亀の形に造られている。この土台を「亀趺(きふ)」という。

 なぜ、亀が石碑を支えるのだろうかと疑問を持たれようが、これ、本当は亀ではない。土台の装飾は、中国ではもともと、「贔屓(ひいき)」に造られていた。「贔屓目(ひいきめ)にみる」「贔屓にする」「ご贔屓筋」。特定の人を特別扱いする、あの贔屓である。贔屓って亀のこと?

 贔屓が亀なら、贔屓目は亀の目、「贔屓にする」は「亀にする」、ご贔屓筋は「亀様筋」ということになる。ありがたみがなくなるどころか、むしろ、コケにされているようだ。

 『大漢和辞典』で贔屓を引くと、(1)力を用いるさま(2)大きい亀(3)目をかけて引き立てる-という3通りの説明がある。

 「贔屓目にみる」などは(3)の意味で使われている。しかし、本来の意味は(1)なのだ。

 実は、贔屓は(中国の伝説上の生物)「龍生九子(りゅうせいきゅうし)」の一つで、龍の子供だ。

 龍には9頭の子供がいた。贔屓は背に甲羅を持ち、亀に似た容姿をしているが、亀と違って、龍の子らしく頭に角がある。出来の悪い子だったが、特技を1つ持っていた。重いものを支えることを好む、という特技だ。

 贔屓は重さを支えることを好むから、石碑の土台には最適だ。こうして贔屓趺が生まれた。

 贔屓は想像上の神獣だが、現実には角がないだけで容姿がよく似た、誰もが知っている亀がいる。そこで、贔屓は次第に亀と混同されていく。こうして、軒を貸して母屋を奪われ、「贔屓趺」は「亀趺」と呼ばれるようになった。

 なお、石碑の頭部を飾る蓋状のものを「●首(ちしゅ)」という。「●(みずち)」は角のない龍をいうが、こちらは龍の娘だ。石碑は龍の子供(姉弟)で守られているのだ。

 陶磁器を支える足に「獣脚(じゅうきゃく)」と呼ばれるものがある。観世音寺(福岡県太宰府市)には、青磁三足壺(せいじさんそくこ)(国の重要文化財)という獣脚付きの越州窯(えっしゅうよう)系の青磁★(せいじふく)がある。

 「★」は釜と、それを支える五徳(ごとく)を一体化した形の壺をいう。優美な形をしている。昔、越州窯の遺跡がたくさん分布する、中国浙江省の慈渓(じけい)市博物館を訪問した際に、館長に写真をお見せしたところ、「これほどの逸品は中国には残っていない」と感激された。

 五徳を模した三足は、獣の脚状(きゃくじょう)に意匠されている。この形の脚を持つ獣の正体は明らかではない。それでも、3つの足で壺を支える形態は、重いものを支える性質の「贔屓」の足である可能性がある。

 今、贔屓が龍の子供の名称だということも、重さを好むことも、人々から忘れられた。贔屓は誰にも贔屓にされなかったのだ。

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【プロフィル】高倉洋彰

 昭和18年福岡県生まれ。49年に九州大大学院終了後、福岡県教育委員会、県立九州歴史資料館を経て、平成2年から西南学院大教授。弥生時代の遺跡や大宰府のほか、アジアの考古学など幅広く研究。「弥生時代社会の研究」、「行動する考古学」など著書多数。九州国立博物館の誘致にも尽力した。26年3月に西南学院大を退職し、現在名誉教授。前日本考古学協会会長。観世音寺(福岡県太宰府市)住職も務める。

●=虫へんに離のふるとりを取る

★=金へんに腹のつくり

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