がんの治療薬は時に、医学ではなく社会学の問題になる。昭和50年代の丸山ワクチンをめぐる騒ぎが記憶に新しい。「がんの特効薬」ともてはやされ、開発した丸山千里博士が所属する日本医科大病院には希望する人が列を成した。しかし、厚生省(当時)は有効性が確認できないとして承認しなかった。
▶患者の不満は国会でも取り上げられ、「研究継続」で異例の有償治験薬として提供が認められた。今度は経済学である。1人への投与が年3500万円もかかる「オプジーボ」の薬価が50%引き下げられる。皮膚がんの一種の治療薬として発売されたが、患者数の多い肺がんにも使えるようになったからだ。
▶半額といっても100ミリグラム約36万5千円もする。研究開発の期間と費用から高額になるのも仕方がないが、それでも患者は新薬にすがる。保険が適用され、このままでは医療保険財政が破綻してしまう。「医は仁術」に算術も必要な、難しい時代になったものだ。