浪速風

手袋で感じた郷愁

どこで道草を食っていたのか、月が変わってあわてたように秋が深まってきた。朝晩の冷え込みにこたつを出し、衣替えをした。セーターやコートをしまっていた衣装ケースのふたを開けると、かすかに防虫剤のにおいがする。昨冬もほとんど着なかったものはリサイクルショップに売ってしまおう。

▶ケースの隅から、もう何年も使っている毛糸の手袋が出てきた。北国育ちで、手袋は革や薄手の布より毛糸の手編みがいい。よく指先に穴が開いて、母が繕ってくれた。色違いの毛糸のことが多かった。童謡「かあさんの歌」の「●(=歌記号)かあさんが夜なべをして手袋あんでくれた」は郷愁を呼び覚ます。

▶向田邦子さんのエッセーに面白いくだりがある。この歌を、野球の歌だと思っていた人がいたというのだ。「せっせとあんだだよ」というところを「節制と安打だよ」。本当だろうか。そんなことを考えると、衣替えが進まない。古くなった手袋だが、今年もお世話になろう。

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