法廷から

妻の戒名を背中に彫り…「今年で終わりにしよう」 なぜ父は将来ある20代の娘2人を死に追いやったのか

千葉県袖ケ浦市で発生した承諾殺人事件で、千葉地裁は猶予付きの有罪判決という寛大な判断を下した=千葉市中央区(林修太郎撮影)
千葉県袖ケ浦市で発生した承諾殺人事件で、千葉地裁は猶予付きの有罪判決という寛大な判断を下した=千葉市中央区(林修太郎撮影)

「男やもめにうじがわく」とは、連れ添った妻を亡くした男の身の回りが荒廃することを例えていうが、最愛の妻を亡くしたことで身も心も追い詰められた男による悲劇に、裁判所は寛大な結論をくだした。千葉県袖ケ浦市で昨年12月、娘2人を道連れに死のうとし、死にきれなかった男による承諾殺人事件。男が、先立った妻に対して抱いていた悔悟の念が事件の背景にあったとされる。男は妻だけでなく娘2人への悔悟の念を背負い、生きていくことになった。

「刑事責任は軽視できないが、執行猶予が許容される」。今月12日、千葉地裁が男に対して言い渡した判決は、懲役3年執行猶予5年の有罪判決だった。男の重度の鬱病を認定し、心神耗弱で正常な価値判断ができなかったと判断した。裁判長が読み上げる判決理由に、被告の男は微動だにせずに聞き入った。

事件が起きたのは昨年12月。男は20代の娘2人に睡眠薬を飲ませ、自らも服用後、浴室などに設置した練炭に火を付けた。男は駆けつけた救急隊に救助されたが、娘2人は一酸化炭素中毒で死亡。承諾を得て2人を殺害したとして承諾殺人の罪に問われた。

検察の冒頭陳述や判決にによると、男は21歳で結婚し、娘2人に恵まれた。次女は小学校時代にいじめを受けたのがもとで引きこもりがちになり、生前の妻は、この次女の面倒を見るなど家族の中心的存在だった。

その妻に、がんが見つかる。男は当初、妻の病気を「治してあげようと思った」という。ところが、昨年5月に妻が亡くなると、ひどく落ち込んだ。この苦しみから逃れようとしたのが、事件の遠因とされる。

厚生労働省の調査では、配偶者と離別した場合、妻を亡くした男性の方が、夫を亡くした女性の約3倍も自殺しやすいというデータがある。妻を亡くした夫の方が、精神的に脆い傾向が浮かび上がる。

一連の裁判では、被告の男が亡き妻に執着し、精神的に瀬戸際に立たされていた実情があぶり出された。男は妻の戒名の入れ墨を背中に彫った。妻の携帯電話を解約せず、主を失った携帯端末に何度も「会いたい」とメールを送るほどだった。

「妻を助けられなかった」。自責の感情が大波となって男をさいなむ。妻の墓所に出向いては懺悔の日々。仕事もおぼつかなくなり、ほとんど出勤できなくなっていた。

妻の死の直後から、2人の娘に対して心中を持ちかけるようになる。無料通信アプリ「LINE(ライン)」で長女に送ったやり取りが、男の苦しい胸の内を物語る。

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