わが国の伝統芸能の拠点、国立劇場(東京都千代田区)が開場50周年を迎えた。
運営する日本芸術文化振興会の事業は伝統芸能の保存・振興と後継者の養成を中心に、芸術活動への援助や調査研究、資料収集と多岐にわたる。これらの事業で「国立」としての使命を果たしてきたことをまず、評価したい。
歌舞伎が主体の大劇場と、文楽や雅楽、邦楽などを演じる小劇場が開場したのは昭和41年11月1日である。その後に開場した国立能楽堂(58年、東京都渋谷区)や国立文楽劇場(59年、大阪市中央区)なども国立劇場と同様に同振興会が運営に当たっている。
50周年記念として歌舞伎、文楽では「仮名手本忠臣蔵」の全段通し上演が組まれているが、このような通し上演は国立劇場ならではの魅力だ。また古狂言の復活も国立の特色で、多彩な演目は古典に新たな可能性を開くだろう。
課題は、古典になじみの薄い若者の関心を今後、どう引きつけていくかだ。初心者向けの鑑賞教室も開かれたりしているが、鑑賞できる人は限られている。地方でも「明日のファン」の裾野を広げられるよう、「出前」公演なども検討されてよいのではないか。
2020年東京五輪・パラリンピックの開催を控え、外国人鑑賞者の増加が予想される。日本の伝統文化を海外に発信する絶好の機会と捉え、イヤホンガイドの外国語を充実させたりスマートフォンなどの携帯端末に字幕を表示したりと、工夫を凝らしてほしい。