防衛最前線(93)

高度も射程も2倍! 北ミサイルを迎え撃つ地対空誘導弾(PAC3MSE) それでも「100%」は保証されない

 従来型と比べて直径が大きくなり、発射機1基当たりの搭載ミサイルは16発から12発に減少するが、射程の延伸を実現。姿勢制御技術を見直し、より高い高度での迎撃を可能にする。迎撃の最終段階で敵の弾道ミサイルを捕捉するシーカーを改良して精度を向上させるほか、弾頭の破壊力も強化したとされている。

 防衛省は平成29年度予算案の概算要求でPAC3システム全体の改修費用も合わせてMSEの取得費1056億円を計上。日米共同開発を進めるSM3ブロック2A(147億円)も要求しており、MD態勢の強化を図っている。

 ただ、防護範囲が拡大するとはいっても限界があり、MSEに更新されても首都圏の政治・経済の中心地などが主な防護対象となることに変わりはない。PAC3は低高度で敵の弾道ミサイルに直接衝突することで破壊するため、破片がオフィス街や住宅密集地に飛び散る可能性も否定できない。

 ある防衛省関係者は「敵の弾道ミサイルが核弾頭を積んでいる可能性があるので迎撃しなければならないのは当然だ。しかし、仮に核弾頭を積んでいなければ『迎撃に成功したことで被害がより大きくなる』という矛盾が生まれかねない」と語る。

 高高度でのミサイル防衛を担うSM3と、低高度のPAC3の隙間を埋めるため、防衛省は最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」導入の検討を進めている。

 とはいえ、たとえTHAADなど新装備を導入しても100%の迎撃率が保証されるわけではない。日本政府と国民が相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射に「慣れっこ」になってはならない理由がここにある。

(杉本康士)

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