秋の灯は心なしか落ち着いて柔らかく感じられ、灯火親しむべき候であることを実感する。
「いざ、読書。」
自らを奮い立たせるかのようなこの言葉は、27日に始まる読書週間(11月9日まで)の今年の標語である。読書の習慣を定着させるためにも、まずは「いざ」の覚悟で一冊の本を手に取りたい。
現代人にとって、日常生活の中に読書の時間を見いだすのは、決して容易なことではないかもしれない。平成25年度「国語に関する世論調査」の結果でも、65%に上る人が「以前に比べて読書量が減った」と答え、「仕事や勉強で忙しい」「スマートフォンやゲーム機等の情報機器で時間が取られる」「テレビの方が魅力的だ」などの理由が上位に並んだ。
国民全般に読書が縁遠くなりつつある様子がうかがえる。哲学者の三木清が「読書に好都合な状態ができてから読書しようと考えるならば、遂(つい)に読書しないで終るであろう」(『読書と人生』)と言ったように、とにかく「いざ」と心に決めてかからないことには読書の時間は生まれない。
かつては町を歩いていても随所で書店を見かけ、思いがけず読書欲をそそられ、店をのぞいたといった経験が誰にもあるはずだ。とりわけ子供の頃は、絵本や童話の棚の前で魔法にかかったように立ち尽くしたこともあったろう。