これは、この店が、あくまでも飲食店でありつづけようとしたことを物語る。うちは、女の子と客の、こそこそした取引きをみとめない。そんな姿勢を、くずさなかったのである。
だからこそ、この店は新しい企画を、つねにうちだした。従業員女性との濃厚な遭遇がのぞめぬ店に、好色客はよりつかなくなる。その遠ざかりがちな客足を、新しいよそおいでつなぎとめようとしたのである。
お尻をだしたウエイトレスがハンバーガーをはこぶ、「オイドナルド」。トップレスの給仕が牛丼を出す、「乳(ちち)の屋」。「あべのスキャンダル」の後継店は、たとえば以上のようなアイデアに、うってでた。それらは、風俗店ほど助平になれない飲食店がくりだした、苦肉の策だと言うしかない。
ただ、つぎつぎにあらわれた新機軸は、週刊誌などの誌面をにぎわした。好色な街という大阪像を補強することにも、いくらかは貢献しただろう。実質的には、そう助平な店でもなかったのに。 (国際日本文化研究センター教授)