鑑賞眼

国立劇場「仮名手本忠臣蔵」(第1部)悠然と幸四郎、梅玉の気品

 国立劇場開場50周年。

 伝統芸能の保存、振興を目的に設立されて半世紀、9月28日に記念式典を終え、今月から来年3月まで記念公演が催される。歌舞伎では、義太夫狂言の傑作「仮名手本忠臣蔵」全11段の完全通し上演を10月から12月まで3カ月にわたって見せる。20周年時の通しで省かれた場を復活しての完全版だ。今月は第1部。大序から4段目まで。

 大序が出る幕開き前だけに、登場する口上人形による配役紹介や独特の鳴物、赤穂浪士にちなむ47回の柝(き)の音に併せ開く定式幕、東西声(とうざいごえ)から人形身だった登場人物たちが顔を上げる…。本公演ならではの儀式演出にわくわくするが、やや落ち着きとコクが欠けた。裏方陣が要確認だ。

 「兜(かぶと)改め」は市川左團次の高師直(こうのもろのお)、片岡秀太郎(ひでたろう)の顔世御前、中村錦之助(きんのすけ)の桃井若狭之助(もものいわかさのすけ)、中村梅玉(ばいぎょく)の塩冶判官(えんやはんがん)。2段目上の「力弥使者」が眼福。許嫁(いいなずけ)の大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)の息子、力弥(中村隼人)と加古川本蔵(かこがわほんぞう)の娘、小浪(中村米吉)の純愛コンビ。じっと見合す顔と顔。米吉の可憐(かれん)さ、初々しさ。下に「松切り」が出る。3段目は、早野勘平(中村扇雀(せんじゃく))と腰元おかる(市川高麗蔵(こまぞう))の「文使い」。「刃蔵(にんじょう)」があって、4段目へ。「判官切腹」で待ち焦がれる中、登場する松本幸四郎の大星の悠然たる大きさ。梅玉の判官に凛然(りんぜん)たる気品。珍しい「花献上」が出て、幸四郎=大星が慟哭(どうこく)の「城明渡し」で幕。27日まで、東京・半蔵門の国立劇場。(劇評家 石井啓夫)

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