正論

米新政権の「再交渉」を受け入れるな…日本のTPP批准が必要な理由 双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦

 トランプ氏は「NAFTA(北米自由貿易協定)は最悪の貿易協定で、おかげで製造業の雇用を外国に奪われた。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)はそれよりも悪い」と非難する。クリントン氏は国務長官時代、TPPの推進役であったが、「水準が低いので現時点では賛成できない」と含みを持たせている。有権者が極度に内向きになっている中で、支持を表明できない様子である。

 オバマ大統領の立ち位置も微妙だ。できれば自分の政権下でTPP批准を果たし、レガシーの一つに加えたい。ところが身内の民主党内さえ説得できないでいる。年内の「レームダック議会」では、歳出法案や最高裁判事の承認など懸案事項が多く、TPP審議にまで手が回らない恐れもある。

 ≪再交渉を拒否する態度表明に≫

 これとは対照的に、安倍晋三内閣は今臨時国会でTPPの早期批准を目指している。TPPの発効には日米両国の批准が欠かせないので、下手をすれば「骨折り損」に終わるかもしれない。とはいえ、仮にトランプ政権が誕生する場合でも、日本の批准には以下のようなメッセージが込められることになる。

 (1)米国内の自由貿易派やアジア外交専門家など「心ある人々」への支援材料になる。できれば大統領選挙の投票日(11月8日)前の衆院通過を望みたい。

 (2)日米以外の他の10カ国のTPP参加国を勇気づけることになる。特にベトナムやマレーシアは国内の反対を押し切って受け入れていることを忘れてはならない。

 (3)アメリカ新政権によるTPP「再交渉」を受け入れない、という態度表明になる。どうしても政治的に必要になる場合は、後ほど補足協定としてまとめるという手段が残されている。

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