正論

米新政権の「再交渉」を受け入れるな…日本のTPP批准が必要な理由 双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦

 それにしても次期アメリカ大統領がこんな感じでは、世界にとっても日本にとっても問題は大ありと言えよう。本当に重要なことが議論されていないからである。

 今日の世界経済は「長期停滞」とも呼ばれる低成長に突入している。今月発表された世界通貨基金(IMF)の見通しでは、世界経済の成長率は3%台、貿易量の伸び率は2%台に低下している。リーマンショック以前には、世界経済の成長率が4~5%、貿易伸び率は2桁台であった。「スロートレード」とも呼ばれる貿易不振が世界経済の足を引っ張っている。

 特に期待を裏切っているのがアメリカ経済だ。当初は世界の牽引(けんいん)役と見込まれていたが、経済成長率は3四半期連続で1%前後にとどまっている。年初には「年4回程度」と言われていた利上げも、まだ1回も行われていない。このことがドル安・円高につながり、日本経済の重荷となっている。

 ≪ほかの参加国を勇気づける≫

 果たしてアメリカ経済は活力を失っているのか、それとも一時的な現象なのか。処方箋はどうあるべきなのか。これらはアメリカだけの問題にはとどまらない。

 トランプ氏は減税と規制緩和を通して、クリントン氏は大規模なインフラ投資によって、アメリカ経済を立て直すと言っている。しかし「スロートレード」という現状に鑑(かんが)みれば、本来は貿易自由化による成長戦略を目指すべきではないのか。ところが米国内の政策論議は全く逆方向を向いている。

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