米大統領候補者による10月9日の第2回テレビ討論会を見ていて、いささか憂鬱になってしまった。その2日前に、トランプ候補の11年前の「女性蔑視発言テープ」が暴露され、前回にも増して激しい中傷合戦となったからだ。
70歳のトランプ氏と、今月下旬には69歳になるクリントン氏が、1時間半にわたって途切れることなく辛辣(しんらつ)な応酬を続ける。そのバイタリティーには敬服するほかないが、政策に関する討議はごくわずかであった。
≪米自由貿易推進派の支援材料に≫
経済問題ではオバマケアをどう是正するか、富裕層への課税やエネルギー産業について、若干の対立軸が浮かんだ程度である。外交問題はほとんどがシリア情勢、そして背後にあるロシアへの評価に費やされた。議論が深まる前に、すぐに個人攻撃に転じてしまうのでまことに後味が悪かった。
唯一、場が和んだのは最後に観客から、「あなたたちがお互いに、相手の尊敬できるところをひとつ挙げてほしい」という質問が飛び出したときであった。クリントン氏はトランプ氏の子供たちをたたえ、トランプ氏は「彼女はファイターだ」と応じた。分裂の度を深めるアメリカ政治において、久々に言論の国らしい成熟を感じた瞬間であった。