森絵都さんが5年ぶり長編「みかづき」 塾教育への情熱傾ける一家3代の奮闘記

 森さん自身は塾をほとんど利用しなかったが、教育熱が過熱し、詰め込み教育が行われた昭和50年代に学校に通い、「授業が退屈で座っているのが苦痛だった」という。デビュー作の『リズム』から前作の『クラスメイツ』まで、中学生を主人公にした作品を多く発表してきたこともあり、ゆとり教育やいじめの多発にも関心があった。

 「なぜ、あのような教育が行われたのか知りたかった。調べるうちに分かったのは、公教育には柱となるような一本の太い線はなく、政治家や経済界らその時々に手綱を握る人の影響下で変わっていったこと。何を達成したのか検証もなく、次の施策が始まることに驚いた」

 目をひくのが、登場する女性の強さだ。激動の塾業界で頭角を現す千明を筆頭に、千明とそりが合わないが気遣いができる長女、常に1番をめざす次女、マイペースの三女らが、それぞれ欠点や悩みを持ちながらも、力強く成長し人生を切り開いていく。

 「書き進めるにつれて、めきめきと育っていった。私のなかの自然な家族像は、ぶつかりあい、裏切りあいながらも、お互いが支え合う。個でありながらも、どこかでつながっている感じ」と語る。

 児童文学での評価が高いが、5年前には大人の恋愛を描いた長編小説『この女』を発表するなど、執筆の幅を広げてきた。「昔からものを書くことだけは好き。今後は、歴史上の人物や未来を舞台にした物語など、まだ書いたことのない分野にも挑戦したい」(村島有紀)

【プロフィル】森絵都

 もり・えと 昭和43年、東京都生まれ。早稲田大卒。平成2年『リズム』でデビュー。11年『カラフル』で産経児童出版文化賞、18年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞。

会員限定記事会員サービス詳細