直木賞作家の森絵都さん(48)が、5年ぶりとなる長編『みかづき』(集英社)を出版した。昭和から平成の学習塾業界を舞台に、教育に情熱を傾けた一家の3代にわたる奮闘記。戦後教育の変遷と、本当の教育とは何かを改めて考えさせられる。
学習塾揺籃(ようらん)期にあたる昭和36年から物語は始まる。天性の教える才能を持つ学校用務員の大島吾郎は、保護者の一人、千明の依頼で塾教師となる。ほどなくして2人は結婚するが、経営方針の違いなどから対立。塾の規模拡大と地位向上を目指す千明と、孫の一郎、そして吾郎の視点で物語は進んでいく。
平成26年から約2年間にわたって文芸誌に書き続けた初の長編連載。「締め切りがあって大変でした。最後の3カ月ぐらいはかなり消耗したけど、体力と反比例するように調子が上がり、書き終えた時には燃え尽き感があった」と森さん。
タイトルは、物語の序盤にある千明の言葉から取った。
〈学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在(中略)今はまだ儚(はかな)げな三日月にすぎないけれど、かならず、満ちていきますわ〉
塾業界を舞台にしたのは「縦につながる家族のドラマのなかに、戦後の教育の変遷を入れたかったから」。大島家が経営する塾も学校教育の方針転換に伴い、一部の子供が通う補習塾から過熱した受験戦争を勝ち抜く進学塾へ。完全学校週5日制が始まった平成14年度以降は、公教育を補完する存在へと姿を変えていく。