中村橋之助改め八代目中村芝翫(しかん)、その長男=中村国生(くにお)改め四代目中村橋之助、次男=中村宗生(むねお)改め三代目中村福之助、三男=中村宣生(よしお)改め四代目中村歌之助の親子同時襲名披露。平成23年に亡くなった名女形の七代目芝翫は父であり、祖父にあたる。しかし、新芝翫は大芝翫と呼ばれた四代目以来の立役を目指す。
昼。切りの「極付幡随(きわめつきばんずい)長兵衛」で見事なスタートをきった。旗本奴(はたもとやっこ)の白柄組(しらつかぐみ)の無理難題を鷹揚(おうよう)に受け流し、ついには卑劣な罠(わな)と承知の上で死地に赴く町奴の粋な風姿が、新芝翫にぴったり映える。序幕の客席からの出の華やぎ、長兵衛内の女房、お時(中村雀右衛門(じゃくえもん))と倅(せがれ)との別れの場、この世の名残が凝縮されて息をのむ。尾上(おのえ)菊五郎の水野十郎左衛門、中村東蔵の近藤登之助など好配役で盛り上げる。
最初に3兄弟が襲名を寿(ことほ)ぎ踊る「初帆上成駒(ほあげていおう)宝船」、先代芝翫の外孫、中村七之助があっぱれに大役巴御前を見せた「女暫(おんなしばらく)」、そして「お染久松浮塒鴎(うきねのともどり)」。
夜。尾上松緑(しょうろく)の「外郎売(ういろううり)」、「口上」が付いて「熊谷(くまがい)陣屋」へ。珍しい芝翫型で、万事に派手さが漂う熊谷次郎直実を新芝翫が堂々と演じる。従来の團十郎型と比べ、わが子を犠牲にする無常感を超えた平和への希求がうかがわれる結末だ。中村吉右衛門(きちえもん)の源義経、中村魁春(かいしゅん)の相模、尾上菊之助の藤の方。坂東玉三郎が超絶な美しさで舞う「藤娘」で打ち出し。3兄弟も随所で熱演した。26日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)