産経抄

ノーベル賞がニュースにならない日 10月5日

 2日前のコラムで、物理学者の寺田寅彦による、「椿(つばき)の花の落下運動」の研究を紹介した。寅彦は他にも、尺八の音響や線香花火など、ユニークな課題に取り組んでいる。

 ▼もっとも当時の物理学は、「相対性理論や量子論が台頭する革命期に突入していた」という。寅彦は一人、日常身辺の自然現象を見つめる独自のスタイルを貫いた(『寺田寅彦』小山慶太著)。

 ▼今年のノーベル医学・生理学賞に輝いた東京工業大の大隅良典栄誉教授(71)は、見事にそのスタイルを受け継いでいる。東大理学部の助手時代に取り組んだ、細胞内の浸透圧調整や老廃物の貯蔵・分解を担う「液胞」は、細胞のごみため程度にしか思われていなかった。「人のやらないことをやる」研究姿勢を続けた結果が、細胞の自食作用「オートファジー」の解明である。

 ▼大隅さんの記者会見では、トレードマークのひげが話題になった。14年前、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは、作業服で記者会見にのぞんで話題になった。受賞の可能性が少しでもわかっていたら、無精ひげぐらいは剃(そ)っておくことができたのに、とご本人は述懐している。