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両手両足のない女性剣士が咆吼した。まるで、大地から熱いマグマが噴き出すように。フルオーケストラが一斉に音を奏でるような大音量で。障害を負いながらも、決して後ろを振り向かない19歳の彼女が独唱したカンタータ、歓喜のアリア。私はここにいる。私は今、生きている-。小さな身体が世界に向けて、そう訴えているかのようだった。
リオデジャネイロ・パラリンピック車いすフェンシング会場で行われた国別対抗3位決定戦。イタリアのエース、ベアトリーチェ・ヴィオは香港の選手を相手に勝利し、祖国を3位に導いた。
イタリアで大人気の彼女の愛称は「ベベ」。最後のポイントが決まった瞬間、ベベは車いすに座ったまま、全身をふるわせて勝利の喜びを表現した。
腕が完全に袖を通っていないウエアの右腕部分が前後左右に揺れた。地面に固定された車いすがガタガタと音をたてた。
彼女はマスクを勢いよく投げ捨てた。ショートカットの顔を紅潮させて、天に向かって叫んだ。たけだけしい雄たけびをあげた。頬に熱い涙が伝い、顔をくしゃくしゃにした。
会場全体が感動で包まれた。本紙派遣の蔵賢斗カメラマンもシャッターを切りながら、心が震え、涙を抑えきれなかった。