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顔の真ん中に大きな目が1つ、鼻や耳はなく、長い舌を持っている…。全国には、さまざまな「一つ目妖怪」の伝説がある。茨城県では古くから、神々に交じり山から下りてきた一つ目妖怪が人家を訪れると信じられてきた。
一つ目妖怪は鬼の末裔(まつえい)などと考えられており、恐怖の対象だった。人々は古くから、一つ目妖怪を撃退するためにさまざまな工夫を凝らしてきた。
その中で、ひときわユニークな撃退方法が伝えられている地域がある。同県桜川市真壁町桜井の五味田地区だ。この地区で毎年2月8日に行われる「八日祭り」では、住民が巨大なわら草履を作り、一つ目妖怪の侵入を防ぐのだという。
同地区で生まれ育ち、30年以上祭りに参加している杉山文男さん(63)によると、作られる草履は大きなものが1つ、小さなものが3つの計4つ。大きな草履は、長さ約1・3メートル、幅約60センチ、重さ約12キロ。小さなものでは長さ約60センチ、幅約25センチ、重さ約3キロになるという。住民のほぼ全員が製作に携わり、わずか約2時間で4つを完成させる。
大きな草履を地区の南にある鉄製の門に掲げ、小さな草履を東、西、北にある木につるすことで、地区全体を守る意味合いがある。
これらの草履で「こんな大きなわら草履を履く巨人がいるんだぞ」と一つ目妖怪を威嚇したり、わら草履の編み目がたくさんの目に見えるため、怖がらせたりできるという。その効果のほどは、「明治時代、祭りを中止した年があった。翌年、集落内の死者が急増し、すぐに祭りは再開された」(杉山さん)という言い伝えがあるほどだ。