その一国としてカンボジアは格好の存在だろう。千年の中国支配を受けたベトナムや、同国を含め南シナ海で領有権を争う国々とは異なり、中国への警戒感が薄い。中国に過度に依存し、援助や資本、労働力が国内にあふれても、さほど心配にならない。
問題なのは、カンボジアのフン・セン首相が、ASEAN内のシンパとして中国の歓心を買い、呼び込んだ中国の資本で道路や橋を造って人気取りをし、政権基盤の安定に利用している点だ。中国の援助は、日本や欧米と違い、人権尊重や環境への配慮といった条件を付けない。内戦時代を含めすでに30年を超える長期となり、強権支配や腐敗が批判されるフン・セン政権には好都合なはずだ。
だが、現在のカンボジアが、日本の大きな貢献の上にあることを忘れてはならない。日本は内戦終結の仲介役として関与し、国連主導の総選挙実施のため、日本として初めて国連平和維持活動(PKO)部隊を派遣した。官民挙げての支援は、カンボジアが平和で安定した民主的国家になることを願ってのことだ。
ASEANでは、ミャンマーが民政復帰を果たしたが、軍の影響力を温存した憲法を抱えなお不安定だ。隣国タイは軍政であり、ベトナム、ラオスは中国と同じ、一党独裁である。そしていま、フィリピンのドゥテルテ大統領が、麻薬犯罪との戦いで「無法状態」を宣言している。南シナ海問題は、海洋での「法の支配」を貫けるかだけではない。これらの国々を、自由や民主主義の側へ引きとめておけるかどうかの岐路なのではないか。(論説委員)