一筆多論

カンボジアは中国の意のままに動いている 内畠嗣雅

 南シナ海での中国の主張を全面的に退けた7月の仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定について、勝訴したフィリピンなど沿岸国を含む、肝心の東南アジア諸国連合(ASEAN)は、支持を打ち出すことができなかった。

 裁定直後のASEAN外相会議は、共同声明での仲裁裁判の取り扱いをめぐり紛糾し、結局、言及せず、9月上旬の首脳会議の議長声明でも触れなかった。外相会議の段階で、フィリピンなどが「裁定を歓迎」と明記するよう主張したが、カンボジアがかたくなに反対したという。

 仲裁裁判所の判断は、中国の強引な海洋進出に歯止めをかける手立てとなり、日本や米国は裁定の尊重を訴えている。南シナ海は世界経済の大動脈であり、日米が安定に関与するのは当然だ。だが、ASEANが黙っているのだから、裁定を「紙くず」とする中国はほくそ笑んでいるだろう。

 それにしても、近年のカンボジアは、中国寄りの姿勢が際立つ。議長を務めた4年前のASEAN外相会議は、南シナ海の領有権問題を取り上げることをカンボジアがいやがり、共同声明を出せないという失態を演じた。単に「親中国」というより、中国の意のままに動いているかのようだ。

 ASEANは全会一致を大原則としている。一国でも反対すれば、意思決定に反映されない。中国の外交攻勢はASEAN各国に及ぶが、絶対に味方となる一国があれば、不利な決定は防げるのだ。

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