産経抄

務台俊介政務官のおんぶと大違い…田中角栄は被災者と同じ地べたに立っていた 9月14日

 ホンダ創業者、本田宗一郎さんは平成3年、84歳で亡くなった。その数日前の真夜中、入院中の本田さんが突然、夫人に命じた。「おい、わしをおぶれ」。

 ▼背中から夫人に、あっちにいけ、こっちにいけと指図する。点滴をしたまま病室を歩き回り、ようやく満足した。親友のソニー創業者、井深大さんは、夫人から話を聞いて、涙が止まらなくなったという。

 ▼「日頃、亭主関白で偉そうに言っているのに、最後にはやっぱり、奥さんに甘えたんですな」。「我が友本田宗一郎」というNHKの番組で語っていた。夫婦の情愛が伝わってくる、美しい情景が思い浮かぶ。それに比べて、なんと無様(ぶざま)な姿だろう。

 ▼台風10号で被災した岩手県岩泉町を視察中の出来事だった。政府調査団の団長を務める務台俊介内閣府政務官が、政府職員におんぶされて、現場の水たまりを渡った。その姿がテレビやインターネットで流れて、激しい批判を浴びている。長靴を準備するのを失念したらしい。元消防庁防災課長の肩書を知って、唖然(あぜん)とする。

 ▼早坂茂三さんが田中角栄元首相の秘書になって、初めて地元の選挙運動に同行した時の話だ。広大な田んぼの中に、小さな人の集団を見つけると、元首相は宣伝カーから飛び出してあぜ道を走り出す。靴も背広も泥まみれになりながら、農家の女性たちに迎えられた。歓声が湧き上がる。「しばらく見ないうちに、またケツがでかくなったな!」「スケベだね、先生!」。

 ▼この光景を見た早坂さんは、元首相の人気の理由について、後年こう記した。「田中と彼女たちは同じ地べたに立っている」(『政治家の器量』赤塚行雄監修)。被災者と同じ地べたに立っているのか、それが問題なのだ。

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