性と美のアイデアの泉 谷崎潤一郎創作ノート・メモ類、全容初収録

全集に初収録された谷崎潤一郎の創作ノート。手前のメモには「颯子」など代表作の登場人物の名前も読める
全集に初収録された谷崎潤一郎の創作ノート。手前のメモには「颯子」など代表作の登場人物の名前も読める

 作家の谷崎潤一郎(1886〜1965年)が残した創作ノートやメモの全容が分かり、今月刊の『谷崎潤一郎全集(全26巻)』(中央公論新社)第25巻で初めて公開された。円熟期から晩年にかけての小説や随筆、未発表作などの構想が同時並行でつづられたアイデアの泉。性と美の世界を追求した谷崎文学の創作過程を伝える貴重な資料だ。

 第25巻に初収録されたのは最初の創作ノート「松の木影」(昭和8年春〜13年夏ごろ)から絶筆メモに至る計11点。折に触れて一部は紹介されてきたが、全集編纂(へんさん)に合わせて全容公開に踏み切った。

 目を引くのは、世に出なかった幻の作品の着想だ。最初のノートには代表作『春琴抄』『細雪』の構想に交じり、「龕(がん)」(=仏像を収める箱といった意味)という題名らしき記述が登場。《マゾヒスト或ひはオナニストにて幼時より婬乱なる男》《関係しても、実在の婦人としてゞなく観念上の女として崇拝する》と続く。マゾヒストの僧が貴族の娘とのエロティックな記憶を温めながら真の愛を志向する-。そんな物語の構想が読み取れるが、実作には至っていない。全集編集委員を務める千葉俊二・早稲田大学教授は「(生涯添い遂げる)松子夫人との関係の中で、肉体以上に精神的に結びつきたいという思いがあったのかもしれない。隠された谷崎の欲望や生理を想像させて興味深い」と指摘する。

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