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鑑賞眼

歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」 鬼気迫る名演「吉野川」

 初代中村吉右衛門の功績をたたえ、始まった秀山祭(しゅうざんさい)。秀山は初代の俳号。当代は吉右衛門を継ぎ、半世紀。初代ともどもなじんだ演目2作を馥郁(ふくいく)と演じる。

 昼に「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」。平家にあらずんば…の世。能狂言に明け暮れる大蔵卿(吉右衛門)の阿呆(あほう)の作りに変化が兆した。「檜垣(ひがき)」での徹底した緩み顔。探りを入れる鬼次郎(きじろう)夫婦(尾上(おのえ)菊之助、中村梅枝(ばいし))を認めても、息をつぐ間の緩急でさっとかわす。2人に源氏再興を願う本心を明かす場も大仰さを避け、口の開閉のみに虚実を託す。平家側の家老、勘解由(かげゆ)(中村吉之助改め吉之丞)の首を刎(は)ね、すがめ眺めつ、はしゃぐ幕切れの阿呆ぶりに、敵味方、生き難い時代に暮らす人間の哀(かな)しさ、いとおしさを強く匂わせた。

 夜の「吉野川」は「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」の名場面。吉右衛門の大判事、坂東玉三郎の定高(さだか)の大顔合わせ。舞台中央にくるくる流れる滝車で見せる吉野川。両花道、両床の配置で、右に大判事、左に定高。両家の仲違いゆえに見舞われる大判事の子息、久我之助(こがのすけ)(市川染五郎)と定高息女、雛鳥(ひなどり)(菊之助)の悲恋。客席を挟み、交わし合う吉右衛門、玉三郎の心中の叫びは嘆き、怒り、祈りの礫(つぶて)となって鬼気迫る。名演である。「ハムレット」か「ロミオとジュリエット」か。シェークスピア悲劇に通底する。

 他に昼は、染五郎が平成23年に復活した「碁盤忠信」と「太刀盗人」。夜は「らくだ」、玉三郎他若手の踊りで「元禄花見踊」。25日まで。東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)