千葉大医学部付属病院(千葉市中央区)は、善玉コレステロールの減少などで目や腎臓に合併症をもたらす危険性のある遺伝疾患「家族性LCAT(エルキャット)欠損症」を治癒するために、脂肪細胞を利用した治療法を世界で初めて開発したと発表した。今後5、6年かけて臨床研究を進め、将来的には脂肪細胞を活用した糖尿病などの難病治療につながることに期待が寄せられている。
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同病院によると、LCATは人体に有害なコレステロールを取り除く「善玉コレステロール」が正常に機能するために必要な酵素の一つ。同症はLCATを作り出す遺伝子が先天的に欠如しているなどの理由で善玉コレステロールが不足や機能低下した結果、処理できなくなった余分なコレステロールが目や腎臓などに蓄積し、視力の低下や腎臓の機能障害を起こして透析治療が必要になるなどの重大な合併症を引き起こすとされている。昨年には厚生労働省に難病として指定され、全国の同症患者は約200〜300人に上るとみられるという。
同症はこれまで根本的な治療法がないとされていたが、同病院の新たな治療法では、患者から摘出した脂肪細胞を培養し、LCAT遺伝子を導入。患者に再移植することで、細胞からLCATがタンパク質として体内に分泌されるようになる。
脂肪細胞は他の細胞と比べ寿命が長く、約10年にわたり活動し、分泌も続くため薬物の投与治療よりも持続性が見込まれている。また、他の細胞と比べてがん化する危険性も極めて低く、治療の安全性も高いという。
同病院はこれらの脂肪細胞の特徴を難病治療に生かそうと、平成12年ごろから着目。動物実験などの研究を進め、今年8月、厚労省から臨床研究の承認を得た。研究の中心となった横手幸太郎教授は「承認により大きなステップを踏み出せる」とコメント。研究は千葉大発のバイオベンチャー「セルジェンテック」と共同で行い、安全性や有効性が評価されれば、脂肪細胞にインスリン遺伝子を導入することで糖尿病の治療や、血友病といった他の病気への応用の道が広がる可能性があるという。黒田正幸特任准教授は「非常に汎用(はんよう)性の高い治療技術なので、難病に悩む患者や医師に広めていきたい」と話した。