最近、『対話』という言葉をよく耳にする。一方で『不寛容』『離脱』なんて言葉も目にする。「見事、対話に成功!」なんて日は来るのだろうか。そんなことをこの本を読んで考えた。
本書は映画監督、是枝裕和さんの著作である。新作映画のメイキング本でも映画評論の本でもない。愚直なまでに撮りながら考えたことが記されている。創作上の自問自答とでも言おうか。それがめっぽう面白い。
業界のムードになじめず、理想と現実に引き裂かれた青春期のエピソード。歴史が語り尽くされたテレビや映画の世界に、果たして自分は必要とされているのだろうか。そんな後ろめたさから本書は始まる。
是枝氏は逃げない。いや、そう書くと勇まし過ぎるか。真正面から戦わない。そこが面白い。若い頃から、氏は安易な答えに落ち着かず、グズグズと逡巡(しゅんじゅん)する。
自分に向いているのは映画なのかテレビなのか。ドキュメンタリーなのかフィクションなのか。居場所を探すように、正しく揺れている。そこで読者は是枝作品の登場人物たちを思い起こし、なるほどと納得する。