極めて異例の事態といっていいだろう。7月19日の神戸地裁。同時刻に別々の法廷で、いずれも兵庫県警の元警部補が起こした2つの事件の初公判が開かれた。ともに窃盗事件。検視先や家宅捜索先から、それぞれ現金やわいせつな写真を盗むという警察の信頼を揺るがす犯行だ。しかも、犯行発覚を恐れて隠蔽工作まで行っていた。「魔が差した」「取り返しのつかないことをした」。後悔の念を口にした2人の元警部補。だが、当然ながら懲戒免職になり、刑事被告人となってしまうなど、その代償はあまりに大きかった。
「魔が差した」
7月19日午後1時半すぎ。神戸地裁の法廷。証言台に立ったのは、検視先で現金200万円を盗んだとして窃盗罪に問われた、兵庫県警捜査1課で検視官の補助官をしていた元警部補の男(49)だった。
検察側の冒頭陳述などによると、元補助官は今年3月27日、「夫が首つり自殺した」との通報を受け、県内の70代の女性宅に同僚ら3人で検視に訪れた。
「こっちにも現金が入っている」。同僚がそう言いながら、1階和室にセカンドバッグを置くのを見た元補助官は、隙を見て、バッグから現金200万円入りの封筒2袋を素早く自身のポケットに入れた。だが、現場を撤収する前に「ばれたらクビになる」と考え、ひそかに女性宅のガレージ奥の棚に置いた。
「魔が差したとしか言いようがない」と振り返った元補助官。約2週間後、現金がなくなっていることに気がついた女性は、ガレージの現金に気づかないまま県警に盗難届を提出、窃盗容疑での捜査が始まった。