スズムシに平和を託し、20年以上繁殖を続けている男性がいる。滋賀県近江八幡市の中守秀雄さん(68)。出征先から帰国後、スズムシの音色に魅せられた父の遺志を継ぎ、毎夏、子供たちなどに無料で配布。20日には平和を祈り、地元の子供たちがスズムシを市内で放つ。(桑波田仰太)
秀雄さんの父、誠之助さんは先の大戦で陸軍に従軍し、中国大陸の最前線へ。昭和19年、足に銃弾を受け、重傷を負ったことが原因で帰国した。
「リーン、リーン」。故郷の近江八幡市で療養中、聞こえてきた美しいスズムシの音色が心にしみわたったという。「平和を感じた」と秀雄さんにしみじみと話すことがあった。
秀雄さんは「スズムシの音色に耳を傾けることができるのは平和だから。戦争のときはそんな余裕はなかったのだろう」と語る。
戦後、誠之助さんは平和の象徴としてスズムシの繁殖を始め、成虫を地域に配ってきた。だが、平成7年心筋梗塞で急死。自宅には、翌年孵化(ふか)する約2000の卵がプラスチック容器に入ったまま残された。
秀雄さんは「父の思いを引き継ぎ、繁殖を続けることが一番の供養になる」と決意した。