動けなかったのではない。動かなかったのだ。リオデジャネイロ五輪卓球女子団体準決勝。台の縁をかすめたボールを、福原愛(ANA)は見送るしかなかった。
歓喜のハンが求めてきた握手を拒んだ。「もし握手したら、あのボールがエッジ(角)に当たっていたと認めることになる。だから最後まで握手したくなかった。チームメートもエッジに当たっていないと言っていた。だからずっと審判の判断を待っていた」-。
ボールが台のエッジではなくサイド(横)をかすめていたのならば、アウトとなり、福原のポイントになる。審判に確認を求めた。判定は覆らない。VTRを見終えたハンが再び握手を求めてきても、まだ応じない。諦めずにずっとラケットを握っていた。村上恭和監督に肩を叩かれて、やっとハンの手に触れた。
勝って泣き、負けて泣き、泣きながらボールを打ち続ける-。中国でそう思われている福原が、その晩は涙がこぼれるのを我慢していた。驚きを隠さない中国メディアに対し、福原はこう言ったという。
「わたしはキャプテンだから。(伊藤)美誠(スターツ)は私よりもっとつらい。もし私が泣いたら、彼女がもっとつらくなってしまう。だから私は唇を噛んででも、泣くわけにいかなかった」