日曜に書く

「第3の矢」は図書館から イノベーションのタネは転がっている 論説委員・山上直子 

 ところで、コピー技術のアイデアも図書館発だったことをご存じだろうか。

 米ゼロックスによる世界初の電子複写機の技術を発明した、弁護士で発明家のチェスター・カールソンが、そのアイデアを得たのは、ニューヨーク公共図書館で見た光伝導に関する論文からだった。同館は多くの事業や人材を育てたことで有名だ。

 つまり図書館は本を貸し出すだけが機能ではない。むしろ、レファレンスサービス(資料検索や情報提供など)やビジネス・イノベーションの支援などに果たす役割も大きい。アベノミクス第3の矢が図書館から生まれても不思議ではないのだ。

 簡単にいえば、図書館には無限の可能性が眠っているが、そのタネを見つけ育てるのは人ということだ。人が来て、利用してくれなければ社会的なメリットは生まれない。そして、サービスを提供する側、される側双方に、まだそうした「図書館文化」が十分、醸成されていないのが日本の現状ではないか。

 ◆ないと困る存在に

 図書館は、本を貸す、資料をコピーさせてくれるただの情報提供システムになってしまってはならない。利用者も、冷暖房完備の「大きな貸本屋さん」にすぎないと思っていてはもったいない。知の集積を武器に、攻めの運営をめざすべきだ。公共図書館は「あった方がいい」のではなく、「ないと困る」存在へと変わらなければいけない。

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