国民の祝日「山の日」の11日、皇太子ご一家をお迎えして記念式典が開かれた上高地(松本市)では、訪れた登山者や観光客らも新たな祝日の誕生を祝った。記念式典では「山と親しみ、山の恩恵に感謝する」と高らかに宣言された。続いて同市のまつもと市民芸術館で催された祝祭式典では、大会シンボル「山の日帽」が来年8月の次回大会開催地、栃木県那須町へと引き継がれた。
日本有数の山岳景勝地・上高地はこの日も祝賀ムードで沸いた。記念式典には、山に縁のある各国の大使館や山岳団体の関係者ら招待者約500人が出席し鐘が8回鳴らされて幕を開けた。皇太子さまがお言葉を述べられ、阿部守一知事は「山は国民にとって貴重な財産。次の世代に確実に引き継ぐため、一人一人できることを実行する。長野県も将来にわたり世界中の人々から愛されるよう、山の活用や保全に全力で取り組む」とあいさつした。
また信濃町の「アファンの森」で里山再生に取り組む作家のC・W・ニコルさん(75)、川上村出身の宇宙飛行士、油井亀美也(ゆいきみや)さん(46)、世界的指揮者の小澤征爾さん(80)が「山への思い」をビデオメッセージで寄せた。
松本市内で開催されている音楽祭「セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)」の総監督を務める世界的指揮者の小澤さんは、自身の音楽と山の関わりを披露し「日本には山がいっぱいある。この日を機にみんなが山に近い生活を送り、山と友達になれたら素晴らしい」と語りかけた。
上高地は今がトップシーズンだ。記念式典の会場が設けられたバスターミナルの周辺は早朝から登山客や観光客でにぎわった。
石川県白山市から登山に訪れた蒔田敏幸さん(68)は「『山の日』は自然の恵みに感謝する日にしていきたい。『山の日』制定をきっかけにした、このにぎわいが長野県だけでなく、全国にも広がっていけば良いと思う」と話した。
バスターミナルで皇太子ご一家を出迎えた松本市の主婦、下平としみさん(55)は「上高地で1回目の式典が行われ、市民として誇りに思います。皇太子ご一家には上高地の自然やきれいな空気を満喫され、また来ていただけたらうれしいです」と語った。
上高地周辺では「山の日」を盛り上げるイベントが行われた。小梨平(こなしだいら)キャンプ場では、OMFの「ブラスアンサンブル」のメンバーが穂高連峰を背に演奏を披露。トランペットやホルンなどの管楽器の音色が夏の山々に響き渡った。
一方、まつもと市民芸術館での祝祭式典には、招待者や公募による参加者ら約800人が出席した。「おめでとう『山の日』」と題したステージでは、一昨年のスイス・ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝した二山(にやま)治雄さん(松本市)が登場。ともに研鑽(けんさん)を積んだ白鳥バレエ学園(長野市)の仲間たちと四季折々に山が見せる美しい風景を華麗な舞踏で表現し、新たな祝日の誕生を祝した。
続いて俳優の石丸謙二郎さんのナビゲーションで山に関わる人たちが次々と登壇した。欧州3大北壁を女性で初めて登攀(とうはん)した登山家で医師の今井通子さんが「山歩きやアウトドアアクティビティを通して知的好奇心から危機管理能力まで身に付け、日本の自然を次世代につなげることが大切だ」と訴えた。
上伊那農業高校(南箕輪村)の生徒3人は、絶滅危惧種「アツモリソウ」の保護回復へ人工受粉させた種子を培養し育てている取り組みを紹介し「成果が出るまで道のりは長いが、信州の素晴らしい環境を私たちが引き継ぐ」と宣言した。
波田少年少女合唱団の美しいハーモニーで「山の日」の歌「山はふるさと」も披露された。