「弟の介護を受ける対価として、毎月13万円を支払う」。70代の姉が、生活に困窮する60代の弟と交わしたこんな契約が、思わぬ波紋を広げている。認知症を発症した姉は、症状悪化の前に、自分で選んだ任意後見人にこの契約の履行を託した。しかし、家庭裁判所は「月13万円を払い続ければ、姉の財産がなくなる」として支払いの打ち切りを指示したのだ。弟は家裁の判断に異を唱え、支払いを求めて姉側を提訴。もはや確かめようのない姉の思いをよそに、今も続くドロ沼の法廷闘争はまた、成年後見制度の課題も浮き彫りにしている。
「弟のことが心配」
姉が認知症と診断されたのは、平成25年3月のことだった。長年にわたり大阪・北新地でラウンジを経営していたが、配偶者はいなかった。6歳下の弟が唯一の親族だった。
「弟の今後が心配や」
30年来の付き合いのある男性によると、姉は若いころからよくそう漏らしていたという。華やかな夜の街に生きる姉とは対照的に、弟は約20年間トラック運転手として勤務し、月30万円に満たない給料で家族を養っていた。借金もあって生活に困窮していたといい、姉の心配の種だったようだ。
自分の判断能力が少しずつ衰えているのを感じたのだろう。姉は同年4月、知人のA弁護士に自分の財産管理を委任。A弁護士を仲介として、同12月に弟とある契約を結んだ。
契約書には3つの約束が記された。
《(1)A弁護士は姉が施設介護を受ける必要が生じた後の介護を弟に依頼し、弟はこれを承諾した》
《(2)弟の介護の対価として毎月13万円を支払う》
《(3)A弁護士は裁判所に、この契約が姉の精神状態が健康なときの委任に基づき、意思を尊重して締結されたことを報告する。弟は任意後見にかかる手続きの中で契約の変更を求められたときは、これに応じなければならない》