2人の「息子」対決 混迷深まる自民 衆院福岡6区補選は政権内、主導権争いの側面

 鳩山邦夫元総務相の死去に伴う衆院福岡6区補欠選挙(10月23日投開票予定)で、自民党内の主導権争いが激しさを増している。県連が蔵内勇夫県連会長の長男、謙(けん)氏(35)を本部に公認申請したのに対し、鳩山氏の次男で大川市長の二郎氏(37)は、無所属でも出馬すると譲らない。2人の「息子」による保守分裂選挙の様相を呈してきた。(九州総局 村上智博)

                  ◇

 「うちの息子が出ます。よろしくお願いします」

 8月3日朝、自民党本部で、蔵内勇夫氏は福岡選出の衆参国会議員に、謙氏のことを頼み込んだ。「福岡県政界のドン」が、平身低頭だったという。

 邦夫氏の死去から約2週間後の7月4日、自民党県連は、人選を進めるための選考委員会を設置した。

 選考過程で、謙氏の名前が浮上した。

 林芳正・元農林水産相(参院議員)の秘書を務めているとはいえ、わずか2年ほどだ。当初は父の勇夫氏も「冗談だろ?」と思ったという。

 だが、久留米市選出の原口剣生(けんせい)県議団会長ら、有力者の名前が浮かんでは消える。消去法で謙氏が本命になってくると、蔵内氏の親心にスイッチが入ったのか。動きは早かった。

 麻生太郎副総理兼財務相(福岡8区)に謙氏を会わせ、出馬への理解を求めた。麻生氏は7月30日、謙氏の選対本部長に就任した。さらに、福岡政界で一定の影響力を持つ古賀誠元幹事長の「了承」も取り付け、選対の顧問に据えた。

 ここに至る蔵内氏の動きを疑問視する声もある。

 7月10日投開票の参院選福岡選挙区(改選3)で、自民党の大家敏志氏は、再選は果たしたが、目標のトップ当選は逃した。蔵内氏は県連会長として、責任を取るべきではないかという意見だ。

 さらに蔵内氏は平成23年の福岡県知事選で、党推薦の内定を得ながらも党内分裂選挙の回避のため立候補を断念した。6区補選で息子の擁立に走ったのは、次の知事選で捲土(けんど)重来を期す布石だと見る向きもある。

 ある県連幹部は「息子も補選に出て、自分も会長のままでは違和感がある。潔く辞めれば評価も上がるだろうに…。万一、謙氏が敗れたら、男を落としかねない」と声を潜めた。

 ◆「思うようには…」

 「主人はずっと二郎を見てきました。もし跡を継いでもらえるならば、ぜひぜひ二郎にやってもらいたいと言っていた。なかなか世の中って、思ったようにはいきません…」

 今月1日、都内のホテルで開かれた邦夫氏をしのぶ会で、エミリー夫人はこう嘆いた。しのぶ会を開いたのは、鳩山邦夫氏が主宰してきた派閥横断型の政策グループ「きさらぎ会」だった。

 「思ったように」進まない理由は、いくつかある。

 二郎氏は7月7日には、報道陣に補選出馬への意欲を語った。

 参院選直前で、県連選考委員会も始動する前だった。麻生氏ら党や県連重鎮への相談もなかった。この表明に党県連は反発した。

 自民党県連には、鳩山家に対する苦い思いがある。

 もともと邦夫氏は、東京の選挙区から出馬していた。平成17年、落下傘候補として福岡6区にやってきた。

 邦夫氏は6区では4期連続で当選し、麻生政権では総務相に就任した。

 ところが平成21年6月、日本郵政社長の進退問題で麻生氏との軋轢(あつれき)が深まり、辞任した。自民党が下野した後の翌22年3月、離党した。

 こうした行動に対し、麻生氏周辺の反発は根強い。だからこそ県連からは「今度こそ、逆境でも県連とともに動ける地元の人材を出そう」(幹部)との声が高まった。

 ◆幹事長へ接近

 それでも二郎氏は、党公認を得ようと2人のキーマンに近づく。

 今月1日、党本部などで二階俊博総務会長に面会し、出馬への意欲を伝えた。

 二階氏は3日に党幹事長に就任した。党の資金と選挙の公認権を握るポストだ。二郎氏の行動は幹事長就任を見越したものだった。

 「たとえ無所属で出ても、勝てばいずれ党公認は得られる」との思いを強くしたという。

 二郎氏と二階氏を引き合わせたのは、二階派の武田良太衆院議員(福岡11区)だった。

 武田氏は麻生氏とは距離を置く。邦夫氏を親しみを込め、「おじき」と呼んでいたほどで、「きさらぎ会」にも名を連ねる。

 その「きさらぎ会」の顧問には、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が就任した。二郎氏は当然、菅氏にも期待をかける。

 麻生氏と菅氏は、7月の参院選で、神奈川選挙区の候補公認や、福岡選挙区での公明票をめぐって激しい綱引きを演じた。

 麻生、菅、二階の3氏は、いずれも安倍晋三首相が重用する。政権中枢の3人の思惑が、福岡6区補選に大きく影響する。安倍首相も邦夫氏とは近かった。

 とはいえ、蔵内謙氏は党県連内でも疑問視する声が出るほど、政治経験は浅い。鳩山二郎氏も大川市長当選に際しては、父・邦夫氏の力が強く働いた。地元経済人は「まだ3年だが、市長として『可もなく不可もなく』といった状況だ」とつぶやいた。

 一方、民進党は5日、臨時常任幹事会で、元インド・チェンナイ日本総領事館職員、新井富美子氏(49)を公認候補に決めた。同党福岡県連幹部の一人は「二郎氏も謙氏も親の七光だ。6区は息子の再就職先ではないんだ。三つどもえになれば、こちらにとっても面白い勝負になるだろう」と語った。

会員限定記事会員サービス詳細