亀岡典子の恋する伝芸

悲劇多い文楽で新作2本とも喜劇-井上ひさし唯一の書き下ろし作、初めての人にもわかり、通はニヤリ

 画期的なのは、2作とも喜劇ということ。文楽の古典はそのほとんどが悲劇だが、近年の、大人を対象にした「不破留寿之太夫」「其礼成心中」「金壺親父恋達引」の3作がすべて人間喜劇というところに、現代の文楽のひとつの提示のしかたがあるように思えるのである。

 「金壺親父-」は、井上ひさしが生前、唯一文楽に書き下ろした作品である。そもそもはラジオやテレビ用に作られたが、40年以上前の作品とは思えないほど、テーマは普遍的でテンポもいい。

 主人公は金の亡者で倹約が趣味の呉服屋の主人、金左衛門。庭に埋めた壺に金を隠し、掘り返しては頬ずりするのが楽しみという嫌な男である。その金左衛門が若くて美しい娘を嫁にもらうことになった。目当ては持参金。ところが、その娘に恋をしたのが自分の息子というから、事態はこんがらがってくる-。

 井上戯曲は、文楽へのオマージュともいうべき文体に、現代語の文章がテンポ良く合わさり、初めて義太夫節を聞く人にもわかる詞章になっている。「酒屋」「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」のパロディーが織り込まれているのも、文楽ファンをニヤリとさせる。それでいて軽快で、井上らしい人間観察にのっとった笑いと皮肉が散りばめられているため、誰もが楽しんで見ることができるのである。

 その井上浄瑠璃に血肉を与えたのが、豊竹英太夫をはじめとする太夫陣と竹澤宗助ら三味線陣。掛け合いで語られるせりふの応酬は人間くさく、飄逸で、味わい深い。