ところが好奇の目は結構しつこい。自分は日々すがすがしく充実しているのに、36歳で就職も恋愛も未経験という肩書は彼らにすれば「終わってる」らしく、冒頭のような質問を常に浴びせかけられる。面倒に思い、半ば実験的に自分と似たような肩書の男を家に住まわせたところ、周囲の反応は激変。本人不在のバカ騒ぎが繰り広げられていく。
〈私〉は「普通」をコピーすべく、周りの人間たちのふるまいを注意深く観察する。例えば、何でわざわざ語尾を伸ばして喋(しゃべ)るのか? 何で怒りに協調すると皆が喜ぶのか? それらが無意味で不気味なルールだと自覚しているぶん、〈私〉のほうが真っ当なのではと思わせられてくる。